人間の皮膚には肉眼で確認することはできない小さな微生物がたくさん住んでいます。
これを常在菌と言います。
常在菌は、身体のさまざまな部分にいてどの部分でも発見することができます。
私たちはこれらの菌をただ住まわせているわけではなく、お互い共生し合って生きています。
皮膚常在菌の役割
皮膚の上には約1000種類近い常在菌が存在しており、常在菌はお互いに群がり集まって、都市のようなものを作っています。
これらの菌は私たちにとってとても重要な役割を担っています。
人間の皮膚は弱酸性の薄い皮脂膜で覆われています。
多くの細菌が弱アルカリ性を好むため、表面が弱酸性であると細菌が繁殖しにくいのです。
この皮脂膜ですが、常在菌が人間の皮脂を分解して、遊離脂肪酸を作り出し皮脂膜を形成しています。
常在菌が皮膚の表面に細菌性のバリアを作って、外界からの細菌の侵入を防いでいるのです。
代表的な皮膚常在菌
常在菌はたくさんいますが、数の多い代表的なものを紹介します。
表皮ブドウ球菌
表皮ブドウ球菌は、皮膚表面や毛穴、角質層の隙間にも存在する菌です。
汗や皮脂をエサにして脂肪酸やグリセリンを作り出しています。
これにより3つの有益な役割を担っています。
1.肌を弱酸性にする
作り出された脂肪酸は、肌を弱酸性に保っています。
弱酸性の環境は表皮ブドウ球菌には住みやすく、黄色ブドウ球菌など有害な菌が活動しにくい環境となっています。
2.お肌なめらか
表皮ブドウ球菌は皮脂を分化してグリセリンも作り出している。
グリセリンには保湿効果があるので、これによって皮膚表面は水分を保ち、なめらかでツヤツヤしているのである。
3.他の菌を抑える
抗菌ペプチドという抗菌成分を生み出すことで他の菌の繁殖を防いでいます。
通常、菌類が皮膚の上で活動するとさまざまな悪臭の原因を産生します。
例として
アンモニア:おしっこのようなニオイ、疲労臭とか呼ばれたりする。
インドール:ウンチの匂い、でも非常に微量だと花のニオイに感じる。
表皮ブドウ球菌により、このような悪臭を抑えてくれている。
ニオイの観点から見ても表皮ブドウ球菌はありがたい存在ですね。
アクネ桿菌(かんきん)
ニキビの原因菌として世間では認識されている菌でしょう。
どのような菌なのでしょう。
アクネ桿菌は、酸素のある環境では生きられません。
そして、非常に皮脂を好むため、皮脂の分泌量が多く酸素が届かない毛穴の奥「皮脂腺」に住んでいます。
この菌も皮脂を分解して、プロピオン酸とよばれる脂肪酸とグリセリンを作り出しています。
皮脂の分泌が多い顔や背中に多く見つかります。
肌を弱酸性にする
表皮ブドウ球菌と共に脂肪酸を作って皮脂膜を形成し、弱酸性のバリアで細菌や病原菌から守っています。
お肌のうるおい
こちらも表皮ブドウ球菌と同じようにグリセリンを生み出して、皮膚の水分を保持する役割を担っています。
ニキビの原因でもある
アクネ桿菌はすべての人の毛穴に存在して、弱酸性を保つ働きをしていますが、毛穴が汚れでつまってしまったとき、酸素がなくなり皮脂がたまってアクネ菌が異常に増えて炎症が起こります。
これがニキビです。
しかし、顔の毛穴は細長く、洗顔だけで詰まりを解消することは難しいかもしれません。
毛穴の詰まりを解消する塗り薬などで汚れを除去しましょう。
アクネ桿菌は常在菌なので殺菌して除去して解決ではありません。
根本的な原因である毛穴の詰まりを解消することで、ニキビを改善することができます。
また、ニキビは痕が残りやすいので、早めに皮膚科の受診がおすすめです。
黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌は皮膚や毛穴で見られる常在菌のひとつで、特に鼻の中にも存在しています。
黄色ブドウ球菌は病原性が高いため、ありがたくありませんが、菌が少なければさほど問題はありません。
しかし、アルカリ性を好むため、皮膚の表面がアルカリ性にかたむくと途端に増殖します。
- ひっきかき傷やケガを受けた皮膚をそのままにした場合
- 洗いすぎて肌がアルカリ性に偏った場合
増殖することで毒素を出し、炎症やかゆみを引き起こします。
この毒素で手の傷から食中毒が起きたりするほどです。
常在菌はバランスが大切
上記のような常在菌が皮膚の上に存在し、皮脂をいただく代わりに外からの細菌などの侵入を防いでいるわけですが、それぞれ存在する菌のバランスが崩れたときに皮膚のトラブルが起こります。
バランスが崩れれば、皮膚は酸性ではなくなり、その影響からアルカリ性を好む菌が増殖し毒素の影響を受けます。
洗いすぎに注意
表皮ブドウ球菌は細菌では「美肌菌」などと呼ばれ、美しい肌を保つためには必要な菌です。
表皮ブドウ球菌はお肌にうるおいを与えるグリセリンなどの物質を、作り出したり黄色ブドウ球菌が増えるのを防いでいます。
この表皮ブドウ球菌は角質層の隙間に住んでいるため、角質が剥がれ落ちるような行為により減ってしまいます。
こんな時に減ります
- 何度も洗浄剤を使って洗う
- 長時間入浴する
常在菌は物理的にお肌にくっついているので、せっけんなどで洗い落とせてしまいます。
石けんで1回、手を洗うと90%の常在菌が流れ落ちると言われています。
10%残っている菌が増殖し、元の数まで戻るまで12時間ほどかかります。
清潔を保とうとしっかり何度も洗うほど、常在菌による恩恵を失うため弱酸性ではなくなり、細菌からのリスクが増え、肌が乾燥するなど健康から遠ざかることになります。
洗顔の回数は少なく、洗浄力の強すぎない洗顔料を選びましょう。
お風呂は1日1回、普通に体を洗うだけで良いようです。
常在菌との付き合い方
皮膚常在菌は多様な種類の菌が存在していて、その役割のすべてはまだ不明な点がたくさんあります。
しかし、わかっていることは常在菌が私たちに危害を加えることはなく、むしろ病原菌の増殖を抑制したり、皮膚にうるおいを与えたりと役立っています。
共栄共存の関係で成り立っていますが、私たちの免疫が低下するとこれらの菌は宿主を攻撃することがあります。
ニキビもその例のひとつです。
ストレスや栄養の偏りなどで皮脂が過剰に分泌された場合、毛穴に住む常在菌であるアクネ菌は異常に繁殖します。
そのため、毛穴で炎症が起こります。
スキンケアとは
皮膚を清潔に保つことは肌荒れや皮膚疾患の予防となるためとても有効ですが、皮膚常在菌はお互いに集まって細菌性バリアを作って外界の細菌の侵入を防いでいます。
スキンケアにとって大切なことは
皮膚にとって有益な常在菌にとって良い状態を作ること
これが実際には美しい肌を作り出すことになるでしょう。
時には医薬品や化粧品を使って皮膚を健康に保持することも必要と言えます。
汗をかくのは良いこと
汗は体を冷却するための役割がありますが、それだけではありません。
- 汗は表皮ブドウ球菌の栄養になる。
- 病原菌を退治する抗菌ペプチドが含まれている。
- 天然保湿因子が入っている。
汗は常在菌を元気にし、細菌の増殖を抑え、保湿効果があるのです。
運動などをして汗をかけば内側からも外側からも体にとって良いことがたくさんあります。
ただし、汗の有用な効果は長時間続くものではないので、汗を長時間放置すると雑菌が増えたりして肌荒れの原因となる。
汗を拭くためにゴシゴシこすれば肌は傷ついてしまうだろう。
汗をかいたらタオルなどでやさしく押さえて拭き取るようにしよう。